大量の映像コンテンツを安価に一斉配信

地上デジタル放送は、片方向の伝送路である。だが、広帯域でしかもモバイル対応できるため、大量の映像コンテンツを安価に広く一斉配信することには適している。

企業レベルでは、映像コンテンツ制作市場2.5兆円のうち、最大の担い手であるテレビ放送事業者、およびその周辺プロダクションの役割の重要性が高まってきた。一方で、県域や国境をなくすブロードバンド革命は、地上波民放業界の全国系列ネット体制のあり方をも根底から覆そうとしてい。

地上波テレビ局の業態変革を

地上波民放業界は自らの収益基盤を守るために、新しい事業モデルの構築に向けた思い切った業態変革が求められる。政府も通信、放送の縦割り行政を是正し、コンテンツに主眼を置いた融合政策を早急に打ち出すべき時に来ている。

右肩上がりの経済成長時代が終焉し、IT革命時代を迎える今日、東京キー局を中心に系列ローカル局を有するわが国の民放経営には、すでに幾つかのゆがみが生じている。

3つの「ゆがみ」

その1:「マスを追求するテレビ」と「個を追求する広告主」

一つは、あくまでもマスを追求するテレビ局と、個を追求する広告主や視聴者との間の意向のゆがみである。株式市場から、企業価値向上を目指す経営への転換が求められているなかで、企業のマーケティング戦略は、マスマーケティング中心から、ブランド価値向上のためのメディア戦略と、個別顧客シェアを高めるためのワン・トゥー・ワンマーケティングへ急速に比重を移している。

画一的な視聴率データ

そのため、現在の画一的な15秒のCM時間枠や、世帯視聴率といった最大公約数的な視聴データでは、広告主のニーズは満たされなくなってきている。広告主は、どのような視聴者がどのような環境で視聴しているかといった、より詳細な個人視聴データを望んでいる。

こうした本質的課題の解決なしに、世帯視聴率競争を続けることは、放送番組内容のさらなる最大公約数化を進め、長期的には広告主のテレビ広告出稿離れを引き起こすだけでなく、価値観が多様化する視聴者のテレビ離れをも促しかねない。

その2:一方的に番組を送るテレビ

二つめには、視聴者に対して決まった時間に一方的に番組を送ることしかできないテレビと、ライフスタイルや価値観が多様化する視聴者の要求との間のゆがみである。インターネットや携帯電話が爆発的に普及するなかで、若者を中心にテレビ視聴時間が短くなるとの調査結果も出ている。また、世帯視聴率という言葉が前提としている「家族がそろってテレビの前で視聴時間を共有すること」は、理想かもしれないが現実的でなくなってきている。

その3:系列ローカル局が不要に

三つめとして、現状では違法・有害情報への対応ルールが未整備ではある。ブロードバンドを利用したインターネット放送が本格普及した場合には、情報発信は県域や国境を越えてグローバルに行き渡る。極論すれば東京キー局の中継局としての系列ローカル局の機能は不要になりかねなくなる。


関連動画

「テレビの滅亡論について」(テレビ東京・豊島晋作の司会)