(2001年11月1日)
ブロードバンド対応
Webサイトを強化
ADSLといったブロードバンド回線でインターネットにアクセスするユーザーが急増している。そのブロードバンド・ユーザー向けに,Webサイトを強化する取り組みが始まっている。3次元や動画などのコンテンツを使って表現力を向上。ユーザーに分かりやすく情報を伝える。Webサイトのブロードバンド対応である。ほかのサイトに差をつけるためにも,ブロードバンド・ユーザー向けにサイトの見直しを検討する時期にきている。
メディアや技術を駆使
ある金融関連企業のWebサイトにアクセスすると,画面いっぱいに店舗が現れる。右側の女性が,左側に表示してあるグラフを使って金融商品を紹介している。時事についてなど,金融関連のニュースも適宜伝える。そこで,株式の売買の注文をしたり,振り込み依頼をしたりという操作が可能である。
これは,電通国際情報サービスがブロードバンド向けのソリューションを提供するに当たり,プレゼンテーション用に作成した画面である。動画やアニメーションなどさまざまなメディアや技術を駆使した魅力的なWebコンテンツを開発,普及させたいという狙いがある。
トラフィックを抑える工夫
とはいえ,トラフィックを抑える工夫は必要である。画面全体を動画で送るのは,ネットワークやサーバーに対する負荷が大きすぎる。商品を説明する女性の部分だけが動画になっている。動画に必要な帯域は,300kビット/秒程度。左側のグラフは,マクロメディアのFlashを使ったプレゼンテーションを利用している。それでも,画面全体に動きが感じられ,あたかも目の前で説明しているような印象さえ受ける。
リッチ・コンテンツの活用
魅力的なサイト作り
こういったリッチ・コンテンツの活用は,すでに始まっている。ネットワークの帯域を有効に活用し,ユーザーにわかりやすい,より魅力的なサイト作りが重要である。
ブロードバンド・ユーザーが急増
いわゆるブロードバンド・ユーザーの増加が著しい。ADSL(非対称ディジタル加入者)やCATVを使って,数100k~数Mビット/秒でインターネットに接続するユーザーである。DSLユーザーは2001年8月末で50万人強で,CATVユーザーと合わせると150万人を超えている。
ADSLユーザーが急増
とくにADSLユーザーが急増している。8Mビット/秒を月額2280円で提供するヤフーの「Yahoo! BB」の登場で,さらにブロードバンド・ユーザーの伸びが加速している。Yahoo! BBに対抗するため,ほかのADSLサービス事業者も,料金の低廉化と伝送速度の高速化を進めている。ADSLの伝送速度は,いまや1.5Mビット/秒ではなく8Mビット/秒が当たり前となりつつある。
NTT東日本/西日本
Bフレッツ
また,NTT東日本/西日本の光ファイバ接続サービス「Bフレッツ」などのように,10Mビット/秒,100Mビット/秒といったさらに高速なインターネット接続サービスもある。ユーザーのアクセス回線は速くなる一方である。
Web3D
こういったブロードバンド・ユーザーを対象として,数100kビット/秒以上の帯域を使うWebコンテンツを開発する時期がきている。動画やアニメーション,それに高解像度の写真やブラウザ上の3次元空間を作り出すWeb3Dなど,いわゆるリッチ・コンテンツが使いやすくなってきた。
ネットワークはまだ余裕がある
ブロードバンド・ユーザーの多くは,これまでのコンテンツを高速でダウンロードできるというメリットで満足している。数10Kバイト程度のコンテンツなら瞬時である。数100Kバイトでも数秒もあればダウンロードできる。これはこれで大きな意味がある。しかし,ユーザーのアクセス回線は,まだまだ余裕がある。ナローバンド向けのコンテンツでは,ユーザーのアクセス回線のごく一部の時間しか使っていない。
訪ねたくなるようなサイト
Webサイトに多少サイズが大きいファイルを掲載しても,ブロードバンドならばストレスを感じることなく閲覧できる。リッチ・コンテンツを掲載しているサイトとそうでないサイトでは,ユーザーのアクセス数や情報のわかりやすさに差が出てくる。Webサイトはいち早くリッチ・コンテンツに取り組む必要がある。出遅れると,ほかのサイトにユーザーを取られてしまう可能性がある。同じ商品を扱っていても,訪ねたくなるようなサイト,わかりやすいサイトのほうにユーザーが集まる。
先進的なECサイトやポータル・サイト
実際,ここにきて,先進的なECサイトやポータル・サイトなどがリッチ・コンテンツを利用してWebサイトの強化を始めている。「2000年後半から,コンテンツはある程度重くなってもいいので,動きのあるわかりやすいコンテンツを作ってほしい,という要望が増えている」(スペースリンクWeb・モバイルソリューション事業部シニアマネージャー)という。コンテンツのサイズがどの程度かは,それほど大きな問題ではなくなりつつある。
ECサイトが実店舗に近づく
すでに,商品について動画で紹介したり,Web3Dを利用して商品の背面や中身を見せたり,といったコンテンツを活用するECサイトが登場している。これまでは,Webページを構成するコンテンツといえば,画像とテキスト。ECサイトなどで商品を紹介するといっても,わかりやすさという点では限界があった。文章で説明するといっても「慣れていない管理者が書くと,意味がうまく伝わらない場合が多いようである」(ランドマークプロジェクトITソリューション事業部)。
購買率の上昇
リッチ・コンテンツを使えば,これまで説明が難しかった情報も,ユーザーに伝えやすくなる。うまくすれば,「ユーザーのアクセス数が大幅に向上するのに加えて,購買率の上昇も見込める」(リアルネットワークスメディア・システム事業部ビジネス開発部テクニカル・マネージャー)という。
印象や情報の質が向上
ユーザーが実際に店舗を訪れて商品を手に取ったり説明を受けたりするのと近い環境を,Web上で提供できる。携帯電話の新商品を動画で説明し,利用したときのイメージや携帯電話の画面などをユーザーに見せている。このようなWebコンテンツが提供できれば,ユーザーに与える印象や情報の質が向上する。
レスポンス
だからといって無駄に帯域を使う必要はない。コンテンツのサイズが大きくなれば,その分レスポンスが悪くなる。かえって逆効果になることさえある。適材適所に効果的にリッチ・コンテンツを使えばよい。
ナローバンド・ユーザー
また,ナローバンド・ユーザーがまだ多いことも忘れてはならない。いまの段階では,ブロードバンド・ユーザー向けとナローバンド・ユーザー向けの2種類のコンテンツを用意しておいたほうが賢明である。
DSL接続ユーザーが激増
料金の急速な低廉化が続いており,今後さらにユーザー数は増えていくとみられる。
ブロードバンド回線はフルに活用されていない
Webページが早く表示されるといった高速化のメリットを得られているが,回線自体にはまだまだ余裕がある。
リッチ・コンテンツを使っているECサイトの方が商品の情報をわかりすく伝えることができるため,集客がよい。
大日本印刷がデモ用に作成したコンテンツ
- ADSL
- Asymmetric Digital Subscriber Lineの略。既存の電話用銅線ケーブルを使う高速ディジタル伝送方式の1つ。非対称ディジタル加入者線ともいう。ADSLは上り(ユーザーからインターネット方向)と下り(インターネットからユーザー方向)でデータ伝送速度が異なる(非対称)。
- DSL
- Digital Subscriber Lineの略。ディジタル加入者回線。xDSLともいう。電話用に敷設,利用されているメタル回線をそのまま利用して1.5Mビット/秒というような高速通信を実現するデータ伝送技術。伝送速度や通信形態によっていくつかの種類がある。
- リッチ・コンテンツ
- Webサーバー上に掲載するコンテンツのうち,動画や音楽などを使って表現力や機能を高めたコンテンツのこと。
- ナローバンド
- 狭い通信帯域,低速通信のこと。アナログ電話回線を使った56kビット/秒やISDNの64k/128kビット/秒などがこれに当たる。
(2002年6月1日)
リッチ・コンテンツ・マーケティング
テキストなどのパーツを組み合わせる
リッチ・コンテンツを配信するためのインフラが整ってきた。ブロードバンド回線の利用が増え,Youtubeなどの動画やアニメーションなどを気軽に配信できるようになる。しかし,ただ単に動画などを配信するだけでは,ユーザーに与える印象は薄い。情報をわかりやすく効果的に伝えるために,動画,アニメーション,テキストなどのパーツを組み合わせたコンテンツを作る。その際にどのような技術を使うかは,配信したいコンテンツによって異なる。
Web3D
ADSLなどのブロードバンド回線を利用するユーザーが急増している。それにともない,Webサイトにも変化が表れ始めた。動画やアニメーションを使ったコンテンツが増えているのだ。サービス内容をアニメーションでわかりやすく紹介したり,Web3Dを使って商品をリアルに見せたりする。多少サイズが大きくても動きがあるコンテンツが求められている。
テキストやFlash
たとえば,セミナーなどの講演の様子を配信するのなら,単なる講演者の動画だけでなくプレゼンテーション・スライドの内容と組み合わせて,よりわかりやすくする。講演者の話題に合わせて,会場で見るのと同じようにスライドが切り替わったり,テキストやFlashを使って補足の情報を伝えたりする。エンド・ユーザーは,あたかも会場にいるかのような臨場感でプレゼンテーションを見ることができる。
ソニー・ミュージックエンタテインメント
音楽ECサイト「bitmusic」
また,リッチ化することにより親しみやすくなったWebサイトもある。ソニー・ミュージックエンタテインメントの音楽ECサイト「bitmusic」では,Web3Dを利用する。ECサイト上に3次元空間のモールを作り,キャラクタが商品を案内してくれる。ユーザーは,キャラクタと対話しながら,楽しくECサイトを利用できる。
リッチ・コンテンツ化が本格的に
これまでも動画の配信などは可能ではあった。しかし,ナローバンド回線向けなので,表示ウインドウが小さいうえ画質も悪く見にくいのが実情であった。ブロードバンドの利用が広がった現状では,ファイル・サイズはあまり気にしないで済む。大きな動画やWeb3Dなどを取り入れたコンテンツを配信することも難しくなくなってきた。
新商品説明会といった「素材」
このようなリッチ・コンテンツへの取り組みは,テレビ局などのような映像や音楽のコンテンツを持っている企業に限った話ではない。どの企業でも株主総会,新商品説明会といった「素材」を持っているはず。これらをリッチ・コンテンツとして配信すれば,株主や顧客などにわかりやすく情報を伝えることができる。
見せ方を工夫
ただし,動画やアニメーションを単独で配信するだけでは,コンテンツとしては物足りない。動画のプレーヤが起動され,淡々と動画を映すだけでは効果的とはいえない。音声やアニメーション,テキストの情報などを組み合わせたり,見せ方を工夫したりして,はじめて本当の意味でのリッチ・コンテンツといえる。作成するためのツールも充実してきており,リッチ・コンテンツに取り組むための環境はすでに整っている。
映像を撮影してデータ化する
リッチ・コンテンツの核になるのは,やはり動画である。多くの企業はすぐに配信可能な動画データを持っているわけではない。まずは動画を撮影し,データ化するところから始めなければならない。
i.LINK端子
動画の作成
動画の作成そのものは難しくない。たとえば,イベントやセミナーの様子を動画データにして配信する場合,のような作業を経る。まずは,撮影である。i.LINK端子を持つDV(ディジタル・ビデオ)カメラなどを使うと,ディジタル・データのままPCに取り込むことができる。VHSや8ミリ・ビデオなどアナログの映像でも,専用のボードを利用してディジタル・データとして取り込むことができるが画質はやや劣る。撮影した映像は,アドビ システムズの「Adobe Premiere」やユーリードシステムズの「Ulead VideoStudio」などのソフトウエアを使って編集する。
音声の録音
ここで気をつけておきたいのは,音声の録音である。しっかり映像は撮っていても,音声は忘れがちである。「映像がきれいでも,音声がうまく聞き取れないと,見るユーザーはフラストレーションがたまってしまう」(Jストリーム 技術部テクニカルサポート課の岡田 至功氏)という。
最高でも300kビット/秒程度に
次にエンコード作業だ。編集した動画を,実際にユーザーへ配信する形式に変換する。ここで決めなければならないのは,ファイル形式と圧縮率の2つである。
動画のファイル形式
動画のファイル形式は,マイクロソフトのWindows Media Technologies(WMT),リアルネットワークスのReal Video,アップルコンピュータのQuickTimeのいずれかになる。これらの形式に変換するには,エンコード・ソフトを使う。WMTの「Windows Media エンコーダ」,Real Videoの「RealProducer Basic」は,Webサイトから無料でダウンロードして利用できる。QuickTimeならば「QuickTime Pro」が必要だが,こちらは3780円と有料である。
Adobe Premiere6.0
サード・パーティのツールも充実している。映像編集ソフトでは,アドビシステムズの「Adobe Premiere6.0」やディスクリートの「cleaner 5」などのように,配信用のファイル形式への変換機能を備える製品がある。ピナクルシステムズの「StreamGenie」のように,映像を取り込む端子を6基備え,取り込みから編集,エンコードまでできる,持ち運び可能な専用機もある。
コンテンツのビット・レート
次にコンテンツのビット・レートを決める。ビット・レートを高くすると,映像品質は高いが,ファイル・サイズは大きくなる。逆にビット・レートを低くすると,ファイル・サイズは小さくなるが,映像品質が低くなる。
ブロードバンド向けといっても,どんなビット・レートでもよいというわけではない。配信するネットワークの状況がいつもいいとは限らないからだ。また,再生するPC側の処理能力なども考慮しなければならない。実際にADSLが発揮するスループットを考慮すると,「配信するビット・レートは300kビット/秒程度までが適当」(NTT-ME 第4マーケティング本部第3営業部門の伊藤 三千夫氏)といえそうだ。
動画のビット・レートを動的に変更
エンコードが済んだら,ファイルを配信用サーバーにアップロードする。配信する方式には,ストリーミングと,いったんユーザーがダウンロードする方法がある。ダウンロードする方式であれば,Webサーバーさえあればよいが,ストリーミング方式であれば専用のサーバー・ソフトが必要となる。
サーバー・ソフトウエア
サーバー・ソフトウエアは,配信するファイル形式によって異なる。WMTは,Windows 2000 Serverに「Windows Media サービス」を組み込んでストリーム配信をする。QuickTimeは,Mac OS X Serverに入っている「QuickTime Srtreaming Server」を使う。いずれもOSのCD-ROMからインストールできる。QuickTimeでは,アップルコンピュータのWebから無償でダウンロードできる「Darwin Streaming Server」を使うこともできる。こちらは,WindowsやSolarisなどでも動作する。Real Video,Real Audioの場合は,「RealSystem Server Plus」などを有償で購入する必要がある。
WMT,Real Video
また,WMT,Real Videoなどでは,ネットワークの状況に応じてビット・レートを変更する機能が利用できる。インターネットでは,ネットワークの混雑状況によってスループットが低下する場合がある。ストリーミング・サーバーはそれを検知すると,コンテンツのビット・レートを動的に変更する。
SureStream
たとえば,RealSystem Serverの「SureStream」。PCのスループットをRealPlayerがサーバーに通知し,サーバーはそれに応じたビット・レートのコンテンツを配信する。スループットが低下してきたら,ビット・レートの低いファイルに変更して配信する。あらかじめ,複数のビット・レートでエンコードしておき,最適なファイルを配信する仕組みである。WMTもあらかじめ,複数のビット・レートでエンコードしておき,最適なファイルを配信する仕組みである機能を「インテリジェント・ストリーム」として備えている。
ターゲットへの見せ方に応じた技術を選ぶ
ここまでの作業で,動画を配信する体制は整った。さらに,テキストやアニメーションなどと組み合わせて,ユーザーにとってわかりやすいコンテンツにする。具体的には,動画のタイミングに合わせて内容をテキストで説明したり,動画の中で使っている商品をWeb3Dや高精細な画像で見せたりといった手法である。
このような連携を実現する技術としては,SMIL(同期マルチメディア・インテグレーション言語),HTML+TIME,ICML(インターメディア・キャスティング・マークアップ言語)などがある。
コンテンツに応じた技術
これらの技術は,持っている機能が異なる。単に同期をとるだけのものもあれば,コンテンツを強調するようレイアウトを変更できるものもある。そして,ユーザーが作成しようとしているリッチ・コンテンツもさまざまである。たとえば,イベントのプレゼンテーションと,ECサイトでの商品説明では,コンテンツの見せ方は異なる。配信したいコンテンツに応じた技術を採用しなくてはならない。
簡単なスライドならJavaScriptで
Webブラウザ向けにリッチ・コンテンツを配信する技術として,手軽なのがJavaScriptである。JavaScriptを使えば,指定時間ごとに表示する画像を切り替えるといったコンテンツを作成できる。簡単なプレゼンテーションを配信する程度なら事足りる。しかし,コンテンツ同士の同期を取ったり,連携したりするための機能はない。動画を巻き戻すのに合わせてスライドを戻す,といった機能の実現には向いていない。
メリット
JavaScriptを利用するメリットは,Internet Explorer(IE),Netscape,Operaなどの主要なWebブラウザがサポートしている点である。ただし,どの環境でも本当にコンテンツを見ることができるかは,確認しておくべきである。たとえば,プラグインの問題。ブラウザの中にWindows Media Playerのウインドウを表示しようとすると,IEでは可能でも,Netscape6では表示できずに動画表示部分がブランクになってしまう。Netscape Navigator4.x向けのプラグインはリリースされているものの,Netscape6はプラグインのインタフェースが異なるため,利用できない。FlashやWeb3Dなどのほかのプラグインが必要なコンテンツについてもプラグインのインタフェースが異なるため,利用できない問題がある。
動画,テキストなどを同期させるSMIL
もうすこし高度に,動画やアニメーションを連携させたいのであれば,SMILを使う。動画の再生時間に合わせてスライドを変えたり,ECサイトなら商品紹介動画に合わせて商品購入ページを表示したりできる。SMILをサポートしているのは,RealPlayerとQuickTime Playerのみである。
米リアルネットワークス
SMILは,米リアルネットワークスを中心にW3C(World Wide Webコンソーシアム)が策定した技術である。XMLファイルに,どのようなファイルをどのようなタイミングで表示するかを記述する。表示のレイアウトなども指定できる。テキスト・ファイル,Flashファイル,音楽ファイルなど,さまざまなファイルを組み合わせたコンテンツを作成できる。
RealPlayer8とQuickTime5
最新版は2001年8月に勧告した2.0。2.0からは,ユーザーの操作イベントを拾ってコンテンツの再生を制御したり,動画にエフェクトを加えたりできるようになった。マウス操作やキーボードの入力に応じて動画の再生場面を変えるといったことが容易にできる。RealPlayer8とQuickTime5のプレーヤはSMIL1.0,Real One PlayerはSMIL2.0に対応している。
簡単に作成できるツール
SMILを利用したコンテンツを簡単に作成できるツールも登場している。ドコモ・システムズの「SMILEditor」(8万円),KDDI研究所の「SMIL Scenario Creator」(9万8000円)などがそうだ。デイツーイーツーの「Webcast Assistant」(180万円)のように配信サーバーと一体化したソフトウエアもある。ドラッグ・アンド・ドロップなどにより動画やプレゼンテーションを組み合わせたコンテンツを容易に作成できる。(a)のようなコンテンツ作成画面に,動画やPowerPointのファイルなどをドラッグ・アンド・ドロップする。PowerPointファイルはWebcast AssistantがJPEGファイルに変換する。後は,プレゼンテーションのスライド切り替えのタイミングを設定すれば,講演に合わせてスライドも切り替わるSMILファイルを自動的に生成する。
「RealPix」と「RealText」
さらに,これらのプレーヤは,それぞれリッチ・コンテンツを作成するための独自機能を備えている。Real Playerでは,SMIL1.0を独自に拡張した「RealPix」と「RealText」などを使えるようにしている。静止画にエフェクトをかけたり,字幕を付けたりといった,SMIL2.0で実現できる機能を実装している。
LiveStage Professional
また,QuickTimeでは米トータリー・ヒップ・ソフトウエアの「LiveStage Professional」(14万8000円)を使うと,SMILを利用しないインタラクティブなコンテンツが作成できる。動画,音楽,Flashなどを連携させたり,独自のスクリプト言語でコンテンツの動きを制御したりできる。プレーヤのスキンをコンテンツの1つとして配信することもできる。
SMILならマルチOSで再生
今のところ,SMILを利用する場合はプレーヤ上でコンテンツを表示させることになる。これにはいくつかのメリットがある。1つは,配信ターゲットのPCのシステム要件が少ないこと。どんなOS,ブラウザを使っていても,そのプレーヤが動作しているだけでよい。すべてのコンテンツはプレーヤが単独で再生してくれる。Flashなどもプラグインは必要なく,あらかじめプレーヤが備えている再生機能を使う。
マルチOS対応
また,RealPlayerもQuickTime PlayerもマルチOS対応なので,配信ターゲットが広いのも大きなメリットだ。RealPlayer8は,日本語版はWindowsとMac OS,英語版であればLinux,Solaris,AIXなどでも動作する。QuickTime PlayerはWindows,Mac OSで動作する。
デメリット
一方でデメリットもある。たとえば,Flashの再生機能。あらかじめプレーヤが備えてはいるものの,RealPlayer,QuickTime PlayerともFlash4のレベルにとどまっている。Flash5や最新のFlash MXなどのコンテンツは再生できない。また,RealPlayerやQuickTime Playerは手動でインストールしなくてはならないケースが多いのも難点である。Mac OSにはQuickTime Playerが標準でプリインストールされているが,Windowsではインストール作業が必要になる。
ブラウザ上でSMILとコンテンツ機能を実現
SMILはプレーヤ上でしか利用できない技術だが,コンテンツ機能をブラウザ上で実現する技術もある。マイクロソフトが開発したHTML+TIMEである。SMIL2.0のサブセットで,IE5.5から利用できるようになった。コンテンツを再生,表示するタイミングの指定や,マウスの操作やカーソルの動きに応じた処理など,SMIL1.0と同等のコンテンツ機能を実現できる。利用するには,HTMLファイル内にHTML+TIMEのタグを記述する。
Windows Media ASF Indexer
また,「Windows Media ASF Indexer」というソフトウエアを使う手もある。米マイクロソフトのWebサイトから無料でダウンロードできる。このソフトを利用すると,WMTのコンテンツを作成する際にアンカーを埋め込んでおき,プレーヤがそのポイントを再生したときに別の処理を呼び出せる。動画の場面に応じたHTMLを表示させるといった用途に利用できる。
強調したい場面に合わせてレイアウトを変更
SMILよりも高機能なリッチ・コンテンツを実現する技術もある。ロペ(東京都港区)が開発したICMLである。ECサイトなどのように,コンテンツを効果的に見せることが重要なサイトで有効である。独自のXML言語で,コンテンツの作成には専用のエディタ「ICML Builder」を使う。ICMLの大きな特徴は,シナリオを複数用意できるという点。たとえば,コンテンツを再生している途中で「英語」ボタンを押下すると,すべてのテキストや音声を英語に切り替える,といったことができる。次に「日本語」ボタンを押下すると,すべて日本語に戻る。
大きな特徴
もう1つの大きな特徴は,動的にコンテンツのレイアウトを変更できる点。動画が重要なシーンでは動画を大きく配置し,動画よりもテキストなどによる解説をしっかりと読んでもらいたければ,動画を小さくして,その分,テキストの表示領域を広げる,といった利用方法ができる。
ただし,ICMLも対応するブラウザはIE5.5以上である。ICMLのコンテンツを表示するためにはプラグインを導入する必要があるが,通常はActiveXコントロールを使って自動的にインストールされる。
仏イプノタイザ(Hypnotizer)
これまで紹介した技術ではフレームごとにそれぞれのコンテンツを表示していたが,動画や画像などを重ね合わせて表示する方法もある。この技術は仏イプノタイザ(Hypnotizer)が開発した。Windowsのみに対応している。この技術を使うと,動画,HTML,静止画といった各コンテンツをレイヤー化し,重ね合わせて1つのコンテンツとして表示できる。各レイヤーはユーザーのマウスの操作によって表示したり,隠したりすることもできる。たとえば,イニット(東京都新宿区)は商品紹介の映像の上に,さらに詳細な情報をオーバーレイで表示するコンテンツを制作している。ほかにも,動画コンテンツに字幕を挿入したり,動画の上にボタンやウインドウを表示するなどの用途が考えられる。
音楽ECサイト
Web3DをECサイトの案内役にする事例もでてきた
ソニー・ミュージックエンタテインメントの音楽ECサイト「bitmusic」では,ソニーのWeb3D技術「SpaceStream」を使っている。3次元キャラクタが商品の案内をする。
ブロードバンドのアクセス回線では,サイズの大きなコンテンツが利用しやすくなる
ADSLなどのブロードバンド回線が普及し,ユーザーはよりリッチなコンテンツを求め始めている。
動画コンテンツを配信するまでの工程
撮影した映像を取り込み,加工して配信する。すでに撮影済みのビデオ・テープがある場合は,専用の機械を使ってディジタル・データに変換する。編集ソフトの画面写真は,アドビ システムズの「Adobe Premiere6.0」。
ピナクルシステムズの「StreamGenie Presenter」は取り込みからエンコーディングまで1台で可能
映像取り込み用のインタフェースを6つ備えている。イベントなどの会場に持ち込める。
ビット・レート
RealSystem Serverは,クライアントPCとのスループットに合わせて動的にコンテンツのビット・レートを変更できる
エンコード時にSureStream機能を使うように指定すれば,ユーザーの通信環境に合わせたビット・レートでコンテンツを配信できる。Windows Media Technologiesにも,「インテリジェント・ストリーム」という同様の機能で、複数のビット・レートでエンコードしておき,最適なファイルを配信する仕組みがある。
SMIL2.0
リアルネットワークスの「RealOne」はSMIL2.0をサポート
SMIL2.0では,動画にさまざまなエフェクトをかけることができる。
(a)動画やPowerPointのファイルをドラッグ・アンド・ドロップして編集する。
(b)プレゼンテーションのサムネイルを自動的に表示してくれる。
ディツーイーツーの「Webcast Assistant」ではSMILを利用
RealPlayer上で動画コンテンツつきのプレゼンテーションを公開できる。
QuickTime
QuickTimeではスキンを配信することができる
配信するコンテンツに合わせたスキンを配信できる。写真はオルカプロダクションが制作したもの。
HTML+TIMEを使えば動画などのコンテンツを制御できる
HTML+TIMEを使ったWebページの例。HTML+TIMEはSMIL(同期マルチメディア・インテグレーション言語)2.0のサブセットである。コンテンツを同期させたり,ユーザーの操作に応じて変化するWebコンテンツを作成できる。
ICML
ICML(インターメディア・キャスティング・マークアップ言語)は専用ツールで作成する
ロペの「ICML Builder」を使ってリッチ・コンテンツを作成し,ICMLファイルを作る。
(a)動画に写っている商品の情報を,テキストや画像で紹介する。
(b)強調したい場面は動画の表示サイズを大きくする。
用途広がるFlash,アプリとの連携がカギに
ICMLでレイアウト変更
FlashといえばWebのトップ・ぺージなどで,アニメーションとして利用される事例が多い。しかしFlashの使い方はそれにとどまらない。
キヤノン電子の「アイアムナツコ」
例えば,キヤノン電子の「アイアムナツコ」(http://www.iamnatuko.com/)は,Flashの画像取り込み機能を使ったECサイトだ。このサイトではユーザーがTシャツをデザインし発注する。ユーザーは,Tシャツに印刷したい画像をブラウザ経由でサーバーに送る。アプリケーション・サーバーは,それをFlashで作成したTシャツのひな型画像に埋め込んでユーザーに配信する。ユーザーはブラウザ上で,Flashの機能を使って画像の大きさを変えたり,文字を追加したりする。デザインが確定したら,そのFlashデータをサーバー側に返すことで,Tシャツの発注となる。
FlashではFlashデータとサーバー・サイドがインタラクティブに通信するようなことは無理だが,工夫によっては,それに近いことが可能になる良い例だ。
動画を取り込めるFlash MX
Flashの可能性
そういったFlashの可能性をさらに推し進めると期待されるのが2002年3月に出荷が始まった「Flash MX」だ。その最も大きな特徴は,動画を取り込めるようになったことである。Flash作成時に,Windows Media,Real Media,QuickTimeなどの動画を挿入できる。動画をFlashの一部として再生できるようになり,より表現力豊かなコンテンツが作成できる。また,動画プレーヤがない環境にも,動画を配信できるというメリットもある。
swfファイルの一部
ただし,動画ファイルは完全にFlashのswfファイルの一部になってしまう。Flashが,外部にある動画ファイルを読み込んで再生しているわけではない。動画の映像を変える場合は,swfファイルを作成しなおす必要がある。
XMLデータを送受信
さらに,アプリケーション・サーバーとの連携機能も強化している。サーバーとFlash間で,HTTPやSSLを使ってXMLデータを送受信できるようになった。Webアプリケーションのユーザー・インターフェースとして利用しやすくなったといえる。キヤノン電子の事例のような「アプリケーション・サーバーとの連携機能を活用した事例が増えそうだ」(アイ・エム・ジェイESP事業本部ディレクター)。
アップロード
JPEGかPNGの画像ファイルをブラウザを使ってアップロードする。その画像をFlashに取り込み,Flash上で大きさを変えたり,回転したりできる。
(a)動画をFlash MXのファイルに埋め込んで配信する。
(b)Flash MXのプレーヤだけで動画を再生できる。
Macromedia Flash MX
動画を取り込める
動画を再生するためのプレーヤがインストールされていない環境でも,Flash MXさえ再生できれば,さまざまな形式の動画を見ることができる。
- Web3D
- 3次元コンピュータ・グラフィックスをWebブラウザ上に表示するための技術。プラグインなどを使って表示するためのドライバを組み込んで実現する。
- Flash
- 米マクロメディアが開発したベクトル・グラフィックスのアニメーション作成ツール。GIFなどのビットマップを使ったアニメーションに比べ,より少ないデータ量で滑らかなアニメーションを作ることができる。
- i.LINK
- 米アップル・コンピュータが開発したインタフェース。FireWireとも呼ばれる。データ転送速度が高速なのが特徴。IEEE(米国電気電子技術者協会)でIEEE1394として規格化されている。「i.LINK」の商標はソニーが持ち,米アップル・コンピュータや他社のAV機器が搭載している。
- WMT
- Windows Media Technologiesの略。米マイクロソフトが開発した,映像や音楽を再生するための技術のこと。プレーヤとしては,Windows Media Playerがある。
- Real Video
- 米リアルネットワークスが開発した動画を,ネットワークで配信するためのデータ形式。
- QuickTime
- 米アップル・コンピュータが開発した,動画データをPC上で再生するために開発された技術の総称。
- ストリーミング
- ストリームは「流れ」の意。処理したいデータをすべて転送し終わってから処理するのではなく,届いた分をつぎつぎに処理する転送形態。
- SMIL
- Synchronized Multimedia Integration Languageの略。動画や音楽,テキストなどのファイルを,同期を取りながら再生するための情報を記述するXML言語。W3Cが標準化を進めており,2001年8月にSMIL2.0を勧告した。
- HTML+TIME
- 米マイクロソフトが開発した,動画やテキストなどを同期させるための技術。「エイチティエムエル・プラス・タイム」と読む。Internet Explorer5.5から組み込まれた。SMIL2.0のサブセット。
- ICML
- インタラクティブなWebコンテンツを作成するためのXML言語。2000年8月にロペが開発した。動画やテキストなどを表示するレイアウトを自動的に変更したり,ユーザーの操作に応じて表示を変えたりできる。
- JavaScript
- 米ネットスケープ・コミュニケーションズと米サン・マイクロシステムズが開発したスクリプト言語。HTMLに埋め込んで利用でき,Webに対話性を与えるなどの応用に用いる。
- RealPix
- RealSystem G2から組み込まれた,画像にエフェクトをかけるための技術。XML形式で動きを記述する。
- RealText
- RealSystem G2から組み込まれた,テキストを効果的にみせるための技術。スクロールさせたり,表示位置を指定したりできる。XML形式で動きを記述する。
- ActiveXコントロール
- 米マイクロソフトのオブジェクト技術COMを使ったプログラム部品(COMオブジェクト)のうち,ネットワークから必要に応じてダウンロード・実行するために必要な機能を実装したもの。